まず、ジアゼパム換算にして約6.67㎎はずいぶん少量であり、約17㎎でもやや多めかなという程度の印象です。
そして、服用中ベンゾジアゼピンが高力価であるほど身体依存形成の確率および離脱困難性は高まる、とするエビデンスは確かにいくつかあります。
RACGP(オーストラリア王立一般診療医学会)のガイドラインには「高用量と長期使用が依存のリスクを高める」と明記されています。2000年のAAFP(アメリカ家庭医学会)の記事「Addiction: Part I. Benzodiazepines -Side Effects, Abuse Risk and Alternatives」でも身体依存形成の確率は「用量×使用期間」つまり総暴露量に比例すると述べられています。
他方で、米FDAの2020年の警告(「ベンゾジアゼピン薬のブラックボックス警告更新要請」)にあるように「ベンゾジアゼピンへの身体依存形成がわずか数日~数週間という短期間での服用でも起こり得る」という報告が示されており、拙書『ベンゾ系睡眠薬・抗不安薬からの安全な離脱方法』でも紹介したエドワード・シュワイツァー医師らの研究「Long-term therapeutic use of benzodiazepines. II. Effects of gradual taper」では、ベンゾ総暴露量とベンゾ離脱困難性との間に相関性はない、と研究データから結論づけています(この研究論文に掲載されている表データは私もつぶさに見ており「確かにバラバラ」でした)。
さまざまな研究結果と見解を総合すると、ベンゾジアゼピンの身体依存形成と離脱リスクについては非常に複雑な状況があると言えます。
これらを総合的に考えると、以下のように考えられます:
1.ベンゾジアゼピンの身体依存形成と離脱リスクは、単純な「カットオフ値」で分類できるものではなく複数の要因が絡み合っている
2.個人差が非常に大きいため、同じ用量・期間でも反応が大きく異なる
3.薬理学的な特性(半減期、活性代謝物の有無など)、遺伝的要因、併存疾患、心理社会的要因など、多面的な要素が影響している
したがって、臨床実践においては個々の患者の状況を総合的に評価し、慎重な減量計画を立てることが重要であると思われます。また、短期間の使用であっても低用量であっても、離脱症状が生じる可能性があることを認識し、どのような用量・期間であっても適切な減量プロトコルを考慮すべきでしょう。
※ あくまで個人的な意見ですが、まずどんなに長期間高用量服用していてもラクに退薬できる確率の方が高いことを知っていただきたいです(拙書『ベンゾ系睡眠薬・抗不安薬からの安全な離脱方法』の47ページにある円グラフをご覧ください)。
そしてお母さまはもう97歳です。
もしラクに退薬できれば良し。
ですが逆に減量によって離脱症状が発生してしまうようなら、減薬で辛い思いをさせずに服用を続けたまま余生をラクに過ごさせてあげたいかと・・・
コリンさんのお母さまが今どのような日常生活動作状態にあるのかわかりませんが(転倒リスクは夜も昼も?)、仮に、私の母が同様の状況で、減量で離脱症状が少しでも発生していまうようであればすぐに服用量を元に戻し、服用は在命中ずっと続けさせ、夜間にトイレに行くときは歩いて行かずに四つん這いになって行きなさい、と言うと思います(※ ベンゾ離脱症状には遅発性があるという厄介な特性も考えると、減薬そのものも諦めてもらうかもしれません)。
※ 実際にどう判断するかは、主治医に相談の上自己責任でお願いします。